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東京高等裁判所 平成7年(行ス)4号 決定 1996年3月25日

抗告人(参加申立人) 西日本旅客鉄道株式会社

相手方(原告) 国鉄労働組合近畿地方本部 外二名

相手方(被告・被参加人) 中央労働委員会

主文

一  原決定を取り消す。

二  抗告人の行政事件訴訟法二二条一項に基づく参加申立てを許可する。

理由

一  抗告人は、主文同旨の裁判を求め、相手方(原告)らは、抗告棄却の裁判を求めた。

二  抗告人の本件参加申立ては、相手方(原告)らが相手方中央労働委員会を被告として提起した東京地方裁判所平成六年(行ウ)第七二号中労委救済申立棄却命令取消請求事件について、相手方(原告)らの請求が認容され、救済申立棄却決定が取り消されると、その取消判決によって抗告人の権利が害されることになると主張して、抗告人が行政事件訴訟法二二条一項に基づき相手中央労働委員会に訴訟参加する旨を申し立てたものである。

そこで検討すると、行政事件訴訟法二二条による参加が認められる当事者以外の第三者は、その訴訟の結果により権利を害される者であることを要するとされているのは規定上明らかである。そして、相手方中央労働委員会が救済命令に対する再審査申立てを認容して、相手方(原告)らの救済申立てを棄却した命令の取消しを求める右訴訟において、救済申立棄却命令が取り消されたとしても、これによって抗告人にはなんらの権利義務の変動も生じないから、右命令の相手方当事者である抗告人は、取消判決の効力によって直接その権利を害されることにはならない。しかし、取消判決が確定した場合には、その拘束力(同法三三条)によって被告である相手方中央労働委員会が救済申立事件の相手方当事者である抗告人に対する救済命令を発することがあり、それによって抗告人の法律上の利益が害されることがある。同法二二条による参加は、直接に第三者の権利義務の変動を及ぼす場合だけでなく、訴訟の結果の拘束力によって権利を害される場合をも対象とすると解すべきである。なお、このように解して、相手方(原告)らの救済命令申立てに関する相手方当事者である抗告人を本件訴訟に参加させることが、仮に本件訴訟の被告である相手方中央労働委員会が敗訴したときには、抗告人にも本件訴訟の判決の拘束力を及ぼすことにより(同法三二条、三四条)、紛争の一回的解決に繋がり、訴訟経済に資することにもなる。

相手方(原告)らは、抗告人は本件訴訟において既に補助参加が認められており、本件参加の利益がないと主張する。

しかし、行政事件訴訟法二二条による参加が認められた第三者は、同条四項により民事訴訟法六二条所定の必要的共同訴訟人の地位に関する規定が準用され、単なる補助参加の場合以上の訴訟行為ができるのであるから、補助参加人としてできる訴訟行為の範囲等について当事者間に顕著な争いがある本件訴訟においては、抗告人に補助参加が認められているからといって、本件参加申立ての利益がないことにはならない。相手方(原告)らの右主張は失当である。

三  以上のとおり、抗告人は、行政事件訴訟法二二条所定の参加人適格を有するから、その参加申立てを不適法として却下した原決定は不当である。

よって、本件抗告は理由があるから、原決定を取り消して、抗告人の本件参加申立てを許可することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 稲葉威雄 三輪和雄 浅香紀久雄)

参照

原決定の主文及び理由

主文

本件申立てを却下する。

理由

申立人の本件申立ての理由の要旨は、「被告は、平成五年一二月一五日付で申立人を再審査申立人、原告らを再審査被申立人とする中労委昭和六三年(不再)第六六号事件につき、原告らを申立人の職員として採用したものとして取り扱うことなどを命じた初審命令(大阪地労委昭和六二年(不)第八二号)を取消し、原告らの救済申立てを棄却する旨の命令を発したところ、原告らは該命令の取消しを求める頭書事件を提起した。申立人としては、該訴訟事件につき右命令の取消判決がなされるとなると権利を害されることとなるので、行政事件訴訟法二二条一項により訴訟参加を申し立てる。」というのである。

よって、判断するに、行政事件訴訟法二二条の訴訟参加は、参加しようとする第三者が当該訴訟の結果により権利を害される場合に許されるのであり、右にいう訴訟の結果とは、判決主文における訴訟物自体に関する判断の結果をいうものと解すべきところ、労働委員会の救済申立棄却命令の取消判決は、その事件につき、労働委員会を拘束し(行政事件訴訟法三三条一項)、労働委員会に、右判決の趣旨に従い、改めて申請に対する命令をしなければならないとする効力を有するけれども(同条二項)、使用者たる申立人に対し何らかの義務等を課するのではなく、救済申立棄却命令取消訴訟における訴訟物は、労働委員会による救済申立棄却命令自体の違法性の存否に限られるのであるから、申立人がその判決により権利を害されることにはならない。

そうすると、申立人は行政事件訴訟法二二条一項の「第三者」に当たらないから、本件訴訟参加の申立ては許されない。

よって、申立人の本件申立てを却下することとし、主文のとおり決定する。

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